Name: Ayumi Sakamoto
Occupation: Visitor Services Host, the National Museum of Australia
Website:  www.nma.gov.au
Location: The National Museum of Australia, Canberra, ACT, Australia

Ayumi Sakamoto met her Australian partner in Japan when she was studying English at a private school. When she joined him in Canberra in 2008, she spoke little English and had limited knowledge of Australia. Her English improved through working at a local restaurant, and one year after her arrival, she found herself working as Visitor Services Host at the National Museum of Australia. Ayumi enjoys working with her co-workers from culturally and racially diverse background, and in this video interview, she reflects on the difference between Japan and Australia in terms of workers’ rights.

氏名:坂本あゆみ
職業:ビジター・サービス・ホスト  オーストラリア国立博物館
ロケ地:オーストラリア国立博物館 キャンベラ

今回のJapanese on the Moveに登場するのは大阪出身の坂本あゆみさん。日本で英語を勉強している時に現在のオーストラリア人パートナーの方と出会う。2008年にキャンベラに永住した際、オーストラリアの知識は浅く、英語もあまり話せなかったという。日本食レストランで働きながら英語を学び、一年後にはビジター・サービス・ホストとしてオーストラリア国立博物館に就職。このビデオインタビューではオーストラリアにおける労働者の権利を中心にお話して頂いた。
[tab: エッセー]
私はよく、知り合ったばかりの人に、オーストラリア育ちだと思った。と言われることがあります。それは決して英語がネイティブ並みに喋れるからということではなく、いわゆる“ノリ”がオージーっぽい、ということらしいのです。最近は特に日増しに濃くなっていく日焼け具合も手伝って、余計に日本人にみられることが少なくなってきています。オーストラリア育ちのタイ人?オーストラリア育ちのベトナム人?といった具合です。日本を離れたきっかけは、パートナーからの誘いでした。私たちは日本で知り合ったのですが、その時点でもう彼は1か月後にオーストラリアに戻ることが決まっていました。わずか1か月という短い期間でその誘いを受けて驚きましたが、すぐに決断し、ワーキングホリデービザを申請、彼がオーストラリアに戻った3か月後に私も渡豪しました。そしてその一年後にディファクトビザを申請、さらに今年永住権も取得しました。実は全くと言っていいほど英語が喋れなかった私は、とりあえず最初に5週間の留学生用の英語のコースに参加しましたが、大学に編入するわけでもないのに英語を身につける為だけに働かずフルタイムの学生を続けていくことに少々抵抗を覚え、結局オーストラリアに着いて数週間後には日本食レストランで働き始めました。結果から言うと私には学校で勉強するよりも思い切って社会に出て働くほうが向いていたように思います。接客業の経験はあったので、最初は日本食レストランから始めて、イタリアンレストラン、そしてカフェと最初の一年は飲食業で基本的な英語を身につけました。その後、日本で働いていたときの経験を生かし、スタジオで写真の編集の仕事に携わり、そうこうしていると、もし何か私にできる仕事があったら連絡して欲しいと履歴書を持って押しかけていたNational Museum of Australia(オーストラリア国立博物館)から面接をするので来て欲しいとの連絡を受け、結果、国家公務員としてVisitor Services Hostというポジションに付くことができました。私が働くこの博物館の方針は、全ての展示物には伝えるべきストーリーがあり、それをお客さんに伝えるのがVisitor Services Hostの役割である、ということです。なので、私たちは積極的に来館者に話しかけ、オーストラリアの歴史や文化を伝えます。最初は日本人である私が、オーストラリア人の来館者に片言の英語でオーストラリアの歴史や文化を紹介することに抵抗を感じていましたが、オーストラリアというのは多国籍な歴史や文化を持っている。だからこそ、外国人である、移民である私のような人間がこのような仕事をするのはある意味とても面白いことだと気づきました。なので、私たちのチームの中には中国、フィリピン、ラオス、カナダ、チリ、ギリシャ、イラン、エジプト、ジンバブエと様々な国籍のスタッフがいます。日本の歴史とオーストラリアの歴史を比べながら、自分なりの視点で解釈をした上で同僚やお客さんと話すと、新しい発見もありとても興味深い経験ができます。特に日本から来られたお客さんや交換留学で来ている学生などに日本語でツアーをするのも、私がオーストラリアの歴史を日本の人々に伝えることの出来る貴重な機会で、楽しみの一つでもあります。ここは国や文化の違いを共有するには最高の場所だと言えます。

この博物館で働くにあたって受けた面接では、はっきりと文化の違いを見せ付けられました。この国では自分をどれだけプロフェッショナルに見せるか、どれだけ自分を堂々とアピールするかがとても重要になります。日本人の感覚で考えると、これは自分を良く言いすぎでは?小さなことを大げさに言いすぎでは?と思いがちですが、この国ではそれくらいしないとだめな様です。少し出来ることを寧ろすごく出来ると言ってしまう、それ位で丁度いいんですね。なので面接を受けるにあたり、パートナーにその練習相手を頼んだ時、もっと積極的に!もっと自分を売り込んで!と口酸っぱく言われ、だって実際私はそこまで出来ない!と言うと、少しでも出来るなら、それは“出来る”んだ!と言われ、半信半疑で言われる通りにしたところ面接に合格することができました。正直、確かに“あたしは少々できますがそんなに凄く良くはないです”と自分のことを言う人より、“自分はとても良い人材だから雇ったら損はしませんよ”という方が断然説得力はありますよね。いわゆる日本の『謙遜の美』はここには存在しません。

博物館で働くようになり、英語力は以前に比べて向上しましたが、その基礎を作ったのは、完全に“パブイングリッシュ”である、と私は自負しております。元々ちゃんと学校に行って勉強をしたわけではないので、読み書きをしろと言われると途端にパニックになりますが、話す、コミュニケーションをとるという意味では、パブと言う社交の場で私の英語力は鍛えられました。というのも、軽くお酒が入ると、人間というのは気が大きくなり、普段なら言えないような事、聞けないようなこともあっさり聞けるようになってしまうという便利な性質があります。さらに、私のパートナーはなかなかのスパルタ教育で私をサポートします。なので、渡豪して間もない時から彼は、彼の友達の輪の中に私を連れて行き、全くちんぷんかんぷんにも関らずネイティブ・スピーカーと同じペースで話す聞く、を私に繰り返させました。話について行けるようになる為に私は必死でしたが、それが今考えると糧になっている部分が大きいのです。シャイな日本人同士ではなかなか起こらない、たった今知り合った全く見知らぬ人とのフランクな会話術を学ぶのは、他のどんな場所よりもパブが最適であることは否定の仕様がないでしょう。

日本を出て他の国の文化や生活を知ると、日本のいいところも悪いところも見えてきます。その中で私が見つけた日本とオーストラリアのハッキリとした精神的な違いは、便利と不便への価値観の違いです。日本は便利で、あったらいいな、が人の労働の元ある国。オーストラリアは不便だけど、皆が休める国。なんです。多少不便でも誰だって早く家に帰りたいんだから、お店は5時半に閉めましょう。多少不便でも医者だってホリデーが欲しいんだから、病気でも医者が旅行から帰って来るまで待ちましょう。と言うわけなんです。日本ではあり得ないことです。なので最初はこの不便さとスローさにイライラしたりもしましたが、そうか、だからみんなゆっくりのんびり暮らせるんだなと、日本の環境を基準に考えるのがそもそも違うんだなと思いました。日本の便利さは、誰かが皆の便利な暮らしのために必死に働いている結果なんです。それを皆が少し諦める事ができれば、家族と過ごす時間や自分の好きなことに費やす時間ももっと持てるのだろうなと思います。この国で暮らしていると日本人の勤勉さが本当によくわかります。それはもちろん素晴らしい事なのでしょうが、一年に一回、一ヶ月間の休みをとって家族でホリデーに行ける、むしろホリデーをとらなかったら職場のボスに、なぜ取らないの?と聞かれてしまう、そんな環境で暮らすことはそう悪いことじゃないように思います。

英語には、“おかえり”と“ただいま”が基本ありません。家に帰ってきても“Hey, how are you going?”など、普通のあいさつと同じような言い方をします。私は個人的に、家に帰って誰かが家の中にいたら“おかえり”と言って欲しいと感じます。“おかえり”と言われると、何故かとてもホッとする、あぁ帰って来たなと感じることができます。なので私はパートナーにいつも、私が帰って来たら“Hey, baby”ではなく“おかえり”と言って欲しいと頼んでいます。そして彼が帰って来た時、私は必ず“おかえり”と言って迎えます。私にとって、場所はどこであれ“おかえり”と“ただいま”が言える、言ってくれる人がいる場所。それがHomeであると言えます。そして、私はHomeとは必ずしも自分がそこに住んで長く暮らした場所である必要はないとも思っています。そこは、いずれ帰るかも知れない場所、またはいざという時に帰れる場所、そして私を待っていてくれる人がいる場所、ということです。それは決して一つだけではなく、そう思える場所はいくつもあります。自分の国を離れ、永住権なんかを取ってしまって、日本人だけどこの国、オーストラリアにも好きなだけ住める、パートナーはカナダ生まれなのでカナダ国籍も持っている、さらに彼はフィリピンとオージーのハーフで家族がフィリピンとアメリカにいる、そして仕事柄、海外赴任をする機会がこの先たくさんある。なので正直数年後、自分がどこにいるかというのは全然わかりません。でも行き先はどこでも自分の新しい“Home”を作っていくつもりです。そしてそんな場所を増やしていくのが私の人生の楽しみです。